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【家康の謎】家康は信長の姉妹を娶ったのか?

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榎本秋の家康の謎

大河ドラマ「どうする家康」では序盤から現在描かれている中盤に至るまで、北川景子演じるお市が活躍している。
お市は家康の同盟者・織田信長の妹で、浅井長政のもとに嫁ぐも、織田・浅井の同盟関係が破綻して長政が死ぬと織田へ引き戻された。さらに信長の死後に織田の重臣・柴田勝家のもとへ再嫁するも、その柴田が滅亡する際に運命を共にした、という女性だ。
彼女と長政の間に生まれた3人の娘がそれぞれ有力大名のもとに嫁ぐなど、お市は戦国時代を語るにあたって欠かせない存在ではある。しかし、家康とお市の間の接点は少なくとも史実的には見出せない。……かと思いきや、糸口が何もないわけではないのである。

ここにもうひとり、ルイス・フロイスという登場人物が顔を見せる。
キリスト教布教のために日本へやってきた宣教師で、信長との親交が深かったことでよく知られる人物だ。彼は多くの文章を残しており、この時代の出来事や信長の人となりを知るための史料として活用されている。
その中のひとつ、『日本史』において、フロイスは本能寺の変が起きた時の騒ぎとして、明智軍の兵士たちはどうして自分たちが出陣しなければいけないのかを理解しておらず、ついに「信長は家康を殺すつもりで明智に命令を出したのではないか」と結論した、と書いている。

この記述そのものも非常に興味深く、「どうする家康」のストーリー展開のヒントになった部分は大きいと思われるが、大事なのはその記述の一部だ。フロイスはこの文章の中で家康のことを「信長の義弟である三河の国主」と書いているのである。
この時代の三河国主が家康のことなのは間違いない。では「信長の義弟」とは? 家康の正室、築山殿は(この時点では死んでいるが)信長とはなんの関係もない。家康の姉や妹が信長に嫁いだなどという話も聞いたことがない。他にどんな要素によって家康が信長の義弟になるなどと言うことが考えられるだろうか?

ここからのどんでん返しで「(一時的にでも)お市が家康に嫁いでいたのではないか」と考えられなくもないのではないか。……いや、我ながら非常に苦しい話ではある。信長にはお市以外にも何人も妹がいるので、その中の誰か一人を想定しても構わないわけだ。
もっと言えば、「義弟」というのがフロイスの間違いだったり、あるいは信長と家康の非常に深い関係を「義弟」と書いただけの可能性も高い。だからこれは歴史学的な話ではなく、エンタメ的な、ロマンのある話として聞いていただきたいのである。
史料に記されたたったひとつの言葉から、歴史に隠された物語を想像し、また「あのエンタメ作品はもしかしたらここにヒントを得たのではないか」と考えるのも、歴史趣味の楽しい一瞬であるはずだ。もちろん、それがあくまで勝手な想像であることは重々承知しておく必要はあるのだけれど。

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