土地への興味と美食
ある地域に興味が出たら、ついでに知りたくなるのがその土地の名物、グルメではないだろうか。
今、東美濃の観光地へ出かけたり、あるいは自治体の公式サイトで紹介されている名物・グルメ・美食のコーナーを開いてみたりすると、多種多様な食材や料理が目に入る。
瑞浪市が推している豚肉の瑞浪ボーノポーク、恵那市のご当地料理のえなハヤシ。多治見市のうどんはマニアに人気で、またうなぎ料理も知られている。あるいは内陸定番の川魚料理や、いわゆるB級料理といえばのコロッケなどなど。それらを楽しみに東美濃へ出かけるという人もいるだろう。
一方で、せっかく遠出して口にするなら歴史のあるもの、古くから広く食べられているものがいい、と考える人も多いはずだ。
そこで、ここでは東美濃の伝統グルメとして、どちらも江戸時代頃から食べられていたという「五平餅」と「栗きんとん」を紹介したい。
山仕事のお弁当? 五平餅
五平餅。餅とはいうけれど、餅米は使わない。原料は普通のご飯と同じ、うるち米だ。これをよく潰し、練って、米としての形をなくしてから(あるいは七分に潰してから)、整形して串に刺す。
その上でなにがしかのタレを塗り、炭火であぶって、完成である。形は細長い小判型やいわゆるお団子型、またタレは味噌味が多いものの醤油味もあり、くるみダレもあって、さらに東美濃には味噌ダレに蜂の子(へぼ)をすり入れた「へぼ五平」もある。
この五平餅は長野県、富山県、愛知県、そしてもちろん岐阜県と、中部地方の郷土料理として知られる。それも山間部に多く、東美濃も代表的な五平餅地域として名前の上がる場所だ。


このように広範囲で親しまれた食べ物ではあるが、その由来・起源についてははっきりしない。
「五平さん」なる人物が山仕事の際、日々の弁当として携えていた握り飯に味噌を塗り、焚き火であぶって食べたから五平餅というのだ……なる物語が有名であるようだ。他に、小判型の形が神に捧げる御幣(独特な切り方・折り方をした紙を木あるいは竹の棒で挟んだもの)に似ているから「御幣餅」の名前が生まれた、という説もある。
弁当としての用法とは別に、かつては「山の講」という山仕事を生業とする人々のお祭り前夜など、人が集まる時にも食べられたという。ここでは貴重な米を用いた、「ハレ」の日の食べ物であったわけだ。
今では串に刺してある手軽さからおやつ・スナック的食事として口にされることが多いように思われる。
サービスエリアや道の駅での休憩で買ったり、観光地の屋台や店舗で買い食いしたり……という経験がある人も多いのではないだろうか。
栗きんとん
「きんとん」という食べ物は実際のところ多種多様で、明確にこれがこう、とは言い切れないもののようだ。
正月に付き物の「きんとん」は栗や豆などを砂糖で甘く煮て、餡を絡ませたもの。一方、菓子のきんとんは古くは「粟団子に砂糖を入れたもの」や「餅米団子にきな粉をまぶしたもの」などで、現在では「餡なり求肥なりの芯にそぼろ餡をまぶしたもの」が定番になった。
これらとはまた別の、東美濃地方の郷土食とされるのが、東美濃の栗きんとんである。
栗の身をほじくり出し、裏漉しし、砂糖とあわせて炊き、布巾で絞ってあたかも栗そのものであるかような形を作る、比較的シンプルな菓子だ。
発祥の地とされる中津川市をはじめ、東美濃地方では江戸時代から栗料理が名物であった。
中山道を通る人々をもてなすために、山々で秋にだけ採れる貴重な山栗を用いた料理が考え出されたわけだ。特に、この地域は中山道のおかげで繁栄したことから文化も盛んになり、歌会や茶席で用いられる菓子が必要になった。
その中で生まれた栗菓子の代表格が栗きんとんで、今も多くの和菓子店が独自の工夫で美味しい栗きんとんを売り出している。