前編では、山城で見るべきポイントとして、痕跡を探してみようということを提案しました。中編では、その手がかりでもある土塁や切岸について解説していきます。さぁ、山城に行こう!
この記事は前編・中編・後編の3本立ての中編です。
城の痕跡を見つけるための予備知識(前編の続き)
3.盛り上がったところ = 土塁かも
堀は土を掘って作ります。とにかく掘ります。
しかも横堀は山のすそや中腹をできるだけ途切れずにぐるりと連続していますので、掘るだけと言っても大変な工事です。
そして、掘って出た土は外側に盛って固めます。これが土塁(どるい)です。
つまり、土塁は人工的に作られた盛り土で、堀と土塁はセットと考えてもよいでしょう。
なので、堀を見つけたら、他よりもちょっと高く盛り上がったところはないかチェックしてみてください。こんもりしているところがあったら、それは土塁かもしれません。
土塁らしき盛り上がったところを見つけたら、周りを見渡してください。くぼんでいるところはありませんか?
もしあったなら、それは堀かもしれませんので、盛り上がったところが土塁の可能性が高くなってきましたね。案内板や札などがあれば間違いありません。ない場合は縄張図やマップなどで確認してみましょう。
またひとつ、城の痕跡、発見です。
お城用語「土塁(どるい)」
土を盛って固めた土居のこと。掘ったり削ったりした土を盛り上げた叩いて固める。敵に対して高い壁になるため、侵入を阻むことができる。堀を掘って出た土を横に盛り上げれば、堀と同時に土塁も作ることができる。土塁を見つけたら堀もないか探してみよう。
4.急な斜面 = 切岸かも
山城を横方向に進めるような少し幅広い道や平たん地(曲輪)があったら、山のほうへ目を向けてみてください。
おそらく反対側は崖になっていると思いますが、山のほうはどうでしょう。斜面が急になっていませんか?
もし急な斜面だったら、それは切岸(きりぎし)かもしれません。
切岸は、人工的に作った断崖です。つまり、山の斜面を削って崖にしたものです。なぜそんなことをするのか。答えはひとつ。敵が登ってこれないようにするためです。
山の斜面を人工的に削るなんて危険な工事ですが、それでも守るためには必要なのですね。
切岸があるということは、そこを登ってほしくないということです。
なぜ登ってほしくないのか? それはそのうえが重要な場所だからです。だいたいは、切岸の上は曲輪になっていることが多いです。
なので、切岸を発見したら縄張図で確認してみましょう。その上に平たん地はないですか?主郭とか本曲輪などと書かれていたら間違いありません。
また、切岸があるということは斜面を出来るだけ垂直に削った跡ですから、山の形が大きく変わっています。つまり、切岸の外側には、切岸と同じ幅に平たん地が出来ているはずです。
それを帯曲輪(おびくるわ)と呼びます。切岸と帯曲輪もセットと考えてもよいでしょう。
切岸があったら帯曲輪があるかもしれないし、帯曲輪があったら切岸があるかもしれません。
パンフレットや現地案内板には帯曲輪が書かれていることが多々ありますので、それを頼りに山肌を見てみると急な斜面=切岸が出てくるかもしれませんね。
ここでも城の痕跡、発見です。
お城用語「切岸(きりぎし)」
曲輪の周りの斜面を削って人工的に作った断崖。山の斜面をできるだけ垂直になるように削るため、付随して帯曲輪ができる。お城用語「帯曲輪(おびくるわ)」山の中腹から山麓にかけて、細長くできた曲輪。切岸を作ると付随してできる。
敵が登ってこれないように山を削って斜面を作ります。これが切岸です。その副産物として平たん地ができますが、これが帯曲輪です。帯曲輪を見つけたら切岸がないか探してみて。
帯曲輪に侵入してきた敵には、切岸の上から弓矢などで攻撃できる。防御力もあり攻撃力も抜群だ。
5.人工的に作ったのか、自然の地形かを見極めるには
人工的に作ったのか、自然の地形か。この答えはむずかしいです。はっきり言って慣れです。
いくつも山城に行っている人には、「あ、これは堀だな」「これは曲輪かもな」という勘が働くはずです。筆者も初めのころは地図とにらめっこばかり。しかも方角もわからないし、薄暗いし。
だけど「ここは盛り上がってるのかな? 土塁か? ってことは堀があるか? ……あ、あった。」と発見したり、あらためて縄張図やパンフレットを見ると「横堀」と書いてあって「おぉ、そうかぁ。」と確認したりといった具合で経験を積み重ねていきました。
まだまだ見極め切れていないとは思いますが、色々な山城に行って経験値を高めたいと思っています。
そして判断を難しくさせているのが、経年変化です。
つまり、築城から400年以上経っている山ですから、竪堀や横堀、堀切は埋まり、土塁は崩れ、切岸もなだらかになっています。
自然のことなので仕方ありませんが、人工的に作られた跡なのか、自然地形なのか、この経年変化も含めて見極めなければいけません。むずかしいけど、段々とそう見えてくるから面白いのではありませんか。
あなたもご一緒に城の痕跡を探しに山城に行きませんか?
山城の主要な構造のイメージ図。まずはこれだけを押さえておけば山城にある痕跡を探すのには十分だ。
山城を楽しむ どこに行こうか
ここまで読んで山城に行きたくなった方は、どこに行こうかさっそく調べてみましょう。
お城めぐりに慣れた方はご自身の興味やテーマに沿って選びましょう。もうそこはお任せします!
山城初心者の方は、ご自身のお住まいの地域から行くのがベストです。なぜか? 理由がちゃんとあります。
理由の一つ目は、知った土地だから安心だしなじみがある。二つ目は、近いから行くのに時間がかからない。三つ目は、何かあった時に何とかできそう。そういうときは土地勘がないよりあった方がいいですからね、という理由です。
そして、ひとつの目安としては山城の高さ。標高(ひょうこう)ではなく比高(ひこう)で考えましょう。
比高というのは、山の頂上と周辺(大体は登り口)との標高差のことです。つまり、山城の標高が300mで登り口の標高が100mだったら比高200mということになります。
この比高が200mを超えるとまあまあな登山になっていきますので、比高200m以下がまずは目安になるかと思います。ちなみに、三大山城の岩村城(岐阜県恵那市)の比高は150m、高取城(奈良県高取町)の比高は390m、備中松山城(岡山県高梁市)の比高は340mほどです。
少し慣れてきたら、隣接する都道府県に足を延ばしてみましょう。地域の山城とはまた違った雰囲気が味わえるのではないでしょうか。
そして、テーマを設けて行ってみましょう。例えば、日本三大山城(岩村城・高取城・備中松山城)、武田の城、関東の山城……等々。
この記事を書いているだけで山城に行きたくなってきました。うずうずしてしまいます。
城に一つとして同じ城はありません。山城もひとつとして同じ山城はありません。ひとつひとつが個性的で、防御設備の形も大きさも量も場所も時代背景も、全部異なります。
それぞれを比べてみるもよし、共通点を探すもよし。あなたの興味のある山城を攻めてみてください。
そして、この予備知識だけではなく、山城に行くには事前に準備しておきたいことがあります。それを次の項で説明します。
お城用語「比高(ひこう)」
山の頂上と周辺との標高差のことを比高という。比高は山の頂上と周辺(大体は登り口)との標高差のこと。これが実際にのぼる高さになるので、目安にしよう。