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【歴代征夷大将軍総覧】護良親王――尊氏憎しですべてを失った親王 ?~1335年

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討幕を呼びかけた武勇の人

後醍醐天皇の皇子(第一皇子)である護良親王(もりよししんのう)は早いうちから比叡山に入れられ、「尊雲法親王」と称した。天台座主(天台宗のトップ)も2度務めている。
この時代、仏教教団は単に宗教勢力であるにとどまらず、現実的な力――強大な武力・政治力・経済力の持ち主でもあった。天皇は対幕府の戦力として彼らを味方につけるために護良親王ほかの息子たちを宗教勢力に送り込んだのである。

当の護良親王はといえば、その性根は宗教的・神秘的な方向よりもむしろ現実的・武力的な方向に向いていたようだ。
北条氏を呪誼によって攻撃しようとした節もあるものの、父親譲りの大柄な体を利して武芸の訓練に励んだというから、基本的には皇族でも僧侶でもなく武士的な人物だった、といえよう。

つまり、護良親王は武勇の人だったというわけで、彼の本領が発揮されるのは動乱の時代のことである。
1331年(元弘元年)、クーデター計画を見破られた天皇は京を脱出したものの捕らえられ、隠岐島へ配流となった。しかし、山を降りて還俗していた護良親王はうまく逃れ、各地の武士たちに改めて「幕府を倒すため挙兵せよ」と呼びかけた。
これに応える形で楠木正成や赤松円心といった人々が兵を挙げている。

幕府の派遣した大軍に対して必ずしも劇的な勝利を収めたわけではないが、彼らが粘り強く戦ったからこそ幕府の崩壊は加速したのであり、また護良親王こそが全国的な規模に広がった「反幕府軍」の象徴でありリーダーであったのも間違いないだろう。

護良親王 VS 足利尊氏

このように「武」を強く意識する護良親王が激しく敵視した相手こそ、鎌倉幕府打倒に大きな功績を残すとともに、源氏の名門として鎌倉幕府消滅後の武士たちの中心に成り得る存在であった足利尊氏だった。しかも尊氏は征夷大将軍の地位を望んでいた。

これが認められれば尊氏が名実ともに「武士のリーダー」になり、朝廷より強大な力を得てしまう――護良親王はこのように考えた。
そこで尊氏を封じるため、あえて京には入らないままで「将軍宮」を自称し、自分こそが征夷大将軍として新政府における武士のリーダー、武力の担い手であることを主張。これがうまくいかないと見るや、尊氏を打倒しようと実際に軍を集める動きまで見せた。
結局、天皇が彼を征夷大将軍に任命することによって衝突は回避されたが、のちの破滅を想起させる事件といえよう。

実際、護良親王と尊氏、そして後醍醐天皇の間の亀裂は急速に広がっていった。
尊氏としては強烈な敵意を向けてくる護良親王を自衛のためにも何とかせねばならず、天皇としても勝手な振る舞いが目立つ息子の動きを抑える必要性に迫られていた。尊氏は天皇の寵愛を受けていた阿野廉子(あの れんし)という女性を通しても工作をしていたらしい。結果、護良親王は数ヶ月のうちにあれほど望んでいた征夷大将軍の職を剥奪されてしまっている。

ついには父にも見限られ……

それでも「尊氏こそが新政府最大の敵」と信じる護良親王はどうにか兵を集めようと各地に手紙を出すもうまくいかず、むしろその証拠を尊氏らに摑まれる始末であった。
政治的な方法で目的を達することができず、陰謀も失敗してしまった護良親王という人は、どこまでも武勇の人であったらしい。

もちろん、尊氏はこの証拠を活用する。1334年(建武元年)、阿野廉子を通して働きかけを受けた天皇は護良親王を捕らえさせた。しかもその処罰として、鎌倉にいた尊氏の弟・足利直義の下で監視させることにしたのである。
朝廷としての処罰なら、たとえば配流などの処置がされたはずで、にもかかわらず尊氏方への引渡しになったのは、「勝手に喧嘩をしたんだから当事者同士で片付けなさい」ということに他ならない。ついに彼は父にも見放されてしまったのである。

護良親王の心情を示すつぶやきとして、「武家よりも君の恨めしく渡らせ給う」という言葉が伝わっている。
武家は尊氏、君は父のことだ。父の理想を追い、その邪魔になる相手を排除しようと必死になっての結果に、激しく失望していたことがよくわかる。

彼の最期もまた悲劇的なものだった。1335年(建武2年)、最後の執権・北条高時の子である北条時行が信濃で挙兵した「中先代の乱」が勃発し、鎌倉が攻められる。
守りきれないと判断した直義は護良親王を殺害し、逃走した。彼が北条氏方によって旗印とされるのを嫌ったのである。その死に様は首を斬られてなお噛み砕いた刃をくわえ、日を見開く壮絶なものと伝わる。

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