昨日は雨の中、二条城の展示収蔵館で開催されたギャラリートークに参加してきました。
今回も松本学芸員による解説で、基本的には先日の解説会で伺った話との重複もありましたが、それ以外のことをメモとして共有しますね。
(松本学芸員はお話も上手なので、同じ内容でも何度聞いてもおもしろいです)
- 二条城における復元模写は「古色復元模写」という方法を採用していて、絵の具の変色や汚れなど経年変化も含めた現状を模写している(おおよそ制作から100年後を想定)
- 「松鷹図」、とくに南西隅にいる岩の上に乗った鷹は人気なので全国の美術館に貸し出されていることが多く(フィラデルフィアで開催された狩野派展にも出張した)、いつでも二条城で展示できるわけじゃない
- 「松鷹図」の狩野山楽説を唱えたのは川本桂子さんが最初(1990年頃)、若い方では静岡県立美術館の学芸員も山楽説を主張
- 狩野探幽は「画壇の家康」という異名がある
- 個人の「くせ」をもとに画家を特定する手法・技術を確立したのは二条城の模写事業の初代監督をつとめた土居次義(どい・つぎよし)先生で、イタリアの美術史家ジョヴァンニ・モレッリが考案した「モレッリ法」をアレンジして取り入れた
- 「モレッリ法」では手足の指、爪、耳の形などに特徴を見出すが、日本の障壁画は山水図や花鳥図が中心であるため、木の皺の線、水の流れの線、陰影の付け方で判断する
- ただし二条城では塗り直し、描き直しと修復されているのでオリジナルの線がわからない(二条城にかぎらず金碧障壁画はだいたい修理の手が入っている)
- 鳥は比較的オリジナルの線が残っているので今回の特定に用いられた(そのほか松の全体的な形や構図の取り方も参考)
- 二条城二の丸御殿は桃山様式の障壁画と、探幽が作り上げた新様式(余白を復活させた)の両方の時代様式の絵が見れる貴重な場所
- 修復事業については現在の技術、そして倫理の観点から表面の傷は直せないため残したままになっている
新しい知識として「モレッリ法(モレッリ式鑑定法)」というのが出てきました。
モレッリ法とは
19世紀のイタリアの美術史家ジョヴァンニ・モレッリ(Giovanni Morelli)が芸術作品の作者を特定するために編み出した鑑定方法。
絵画作品において、人物の耳や指先といった小さく目立たない部分にこそ画家の特徴・癖があらわれるとし、それらの体系化と比較対照が、署名のない作品の作者を割り当てたり、真作/偽作を判断するのに有効であると主張しました。
モレッリ法は痕跡から犯人を追跡する探偵や指紋鑑定による身元確定になぞらえられる一方、無意識にあらわれる兆候に個人の隠れた本質を読みとる点から、精神分析を発見する以前のフロイトが注目していたとされている。
こうした技術で美術史家の方々は真贋を見極めたり、作者を特定(推定)されているんですね。
最後に、今回二条城では大広間四の間の「松鷹図」を狩野探幽ではなく狩野山楽によるものだと断定することにしたわけですが、同じように「探幽または山楽」と併記されてきた、式台の間の「松図」についても山楽と断定するのか質問したところ、現時点ではまだ「松図」については結論が出ていないとのことでした。
国宝・二の丸御殿「大広間四の間」特別入室は8月26日(月)まで、展示収蔵館での原画公開は9月8日(日)までとなっています。
二条城を代表する障壁画「松鷹図」の原画と模写の両方を見比べることができる貴重な機会です。まだ日程的に余裕がありますので、ぜひ京都までお越しください!
なおこちらの解説会のレポートも未読の方はあわせて読まれることをオススメします。
p.s.
川本桂子さんの名前で検索するとこの2冊が見つかりました。
山楽の名前があるので下のほうの本かな。