江戸時代、将軍に拝謁するために登城した大名たちは、まず玄関から遠侍に通され、そこから大名の家格に応じた控えの間(殿席)へ案内されます。「伺候席(しこうせき)」ともいいます。
殿席は以下のようにわけられており、通称「松の廊下」とも呼ばれる「大廊下」はさらに上下にわかれていました。大広間も二の間と三の間の区別があったようです。
諸大名の殿席区分
詰所 | 説明 |
---|---|
大廊下 | 将軍家の親族(御三家、御家門)、加賀前田家。 |
溜の間 | 会津藩松平家、彦根藩井伊家、高松藩松平家の三家のみ代々で、それ以外は一代かぎり。幕府の政治顧問を担う少数の有力譜代大名。 |
大広間 | 国持大名(国主)および准国持大名(准国主)、四品以上の官位を持つ親藩および外様大名。 |
帝鑑の間 | 「譜代席」とも呼ばれ、この部屋に詰める大名が譜代大名。ただし真田家など外様でもこの席に移った大名もいる。 |
柳の間 | 五位および無官の外様大名。交代寄合や高家などの旗本も。 |
雁の間 | 幕府成立後に新規に取立てられた城主大名。 |
菊の間 | 幕府成立後に新規に取立てられた無城大名(陣屋大名)。 |
じっさいにどの部屋にどのくらいの大名が割り当てられていたのかについては『図解 江戸城をよむ』(深井雅海、原書房)に表が記載されています。
(松尾美恵子氏の論文「大名の殿席と家格」から作成)
大名の席別家数の比較
1773年(安永2年) | 1835年(天保6年) | |
---|---|---|
大廊下 | 3(1.1%) | 10(3.7%) |
溜の間 | 4(1.5%) | 9(3.4%) |
大広間 | 29(11.0%) | 29(10.9%) |
帝鑑の間 | 65(24.7%) | 63(23.7%) |
柳の間 | 78(29.7%) | 79(29.7%) |
雁の間 | 38(14.5%) | 43(16.2%) |
菊の間 | 30(11.4%) | 33(12.4%) |
記載なし | 16(6.1%) | |
合計 | 263家 | 266家 |
部屋の面積が固定されていることもあり、おおよその人数は決まっているものの、大名の出世などにより部屋の移動もあったことがわかります。
次に「江戸城御本丸御表御中奥御殿向総絵図」(都立中央図書館特別文庫室所蔵)をお借りすることができたので、それぞれの部屋の位置を確認してみましょう。
該当部分を拡大します。御殿の玄関は左下にあります。
玄関を入ったところは二条城二の丸御殿と同じように「遠侍」となっていますね。
将軍が控えている「中奥」にもっとも近かったのは黒書院「溜の間(たまりのま)」で有力譜代大名たちが詰めていました。その次が黒書院と白書院の間に位置する「雁の間」と「菊の間」でここにはあらたに取り立てられた譜代大名が詰めていました。
さらに老中資格のある譜代大名は白書院「帝鑑の間(ていかんのま)」に詰めており、これら4つの部屋が譜代大名が詰めていた殿席です。
「大廊下」には御三家や御三卿といったいわゆる親藩大名が「上之部屋」に、加賀前田家や越前松平家などが「下之部屋」に詰めていました。
そして御三家以外の親藩大名と有力外様大名は玄関に近い「大広間」に、その他の外様大名たちは大広間と白書院の間に位置する「柳の間」が殿席となっていました。
登城した大名たちは坊主衆(ぼうずしゅう)と呼ばれる武家の子息におのおのの殿席まで案内され、そこで待機して、将軍に拝謁する時間が近づくとそれぞれの謁見の間(礼席)へ移動しました。
礼席も家格と行事によって異なり、たとえば大廊下詰めの大名の場合は年始・八朔・五節句の時は白書院、月次登城は黒書院で拝謁し、大広間詰めの大名の場合は年始・八朔・五節句は大広間、月次は白書院が使用されたそうです。
(そもそも二条城では江戸時代、白書院を「御座の間」と呼んでいたとか)
江戸城の本丸御殿はいまぼくらがその広さを体感できる二条城二の丸御殿や、(復元ですが)名古屋城本丸御殿と比べても巨大すぎるので、大名たちは登城の際に御殿内で迷子にならないように各部屋の間取りが記された見取り図を持ち歩いていたそうです。
二条城二の丸御殿の大広間は223.5畳ですが、江戸城本丸御殿の大広間は490畳と倍以上の大きさでしたし、部屋数も桁違いでした。しかも同じような部屋ばかりだからか、障壁画の題材などがメモされていて、絵を見て自分がどこにいるかを把握したとか。
いまの江戸城本丸御殿跡は芝生の広場になっていますが、おおよその位置は松の廊下跡の石碑や「大江戸今昔めぐり」などのアプリで確認できますので、玄関からそれぞれの殿席までの距離を歩いて確認することもできますね。
コロナ終息後には攻城団でもまた江戸城ガイドツアーをやれたらいいですね。
とくに次回はこうした当時のしきたりについても学べる機会にできたら楽しそうだなと考えています。