昨今「聖地巡礼」と称して、ドラマのロケ地やアニメの原作地を訪れる観光客が増えています。
もともとこうしたロケ地巡りは一部の愛好家の間で行われてきましたが、ネットの普及にともなって情報交換が容易になり、また趣味でつながった人同士で連れ立って訪問することも可能になったため、活発に行われるようになりました。
こうした作品きっかけの観光を「コンテンツ・ツーリズム(Contents tourism)」と呼んでいます。
アニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台となった茨城県大洗町、「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台となった沼津市などアニメ作品の舞台となった場所が有名ですが、映画のロケ地や小説の舞台を訪問する事例も昔からあります。
大河ドラマと地域の観光との関係
攻城団に関連するところでは、毎年大河ドラマの舞台となった地方には多くの観光客が訪れます。しかし放送年は賑わうものの、翌年以降は元通りに戻ってしまうという現実があります。
これは数年前に都道府県別の観光入込客数をもとに整理したデータではありますが、大河ドラマの放送がその舞台となった地域の観光にどのくらい貢献しているのか(誘致効果があるのか)をグラフ化したものです。
「観光入込客数」というのは観光庁と都道府県がまとめて発表しているデータで、各観光地点を訪れた観光客の数字を集計したものです。
(ただし年度別の集計になっているなど集計方法が異なることによる誤差はありますので比較の際にはあくまでも参考値として扱います)
じっさいに数字を見てみると、大河ドラマの放送年とそれ以降の落ち込みについては、明らかに影響は見て取れるものの、「翌年」に落ち込んでいるわけではなく、徐々に元の数字に戻ってしまうというのが正しいようです。
なお新潟県の落ち込みがすごいですが、これは集計方法を変えたとか別の要因だと思われます。
コンテンツツーリズムの課題
そもそもコンテンツの舞台として選ばれるのは「運」の要素がとても強いです。フィルムコミッション等の招致活動を行うことはできますが、手をあげたからといって必ず選ばれるわけではありません。
なにより(オリンピック開催地の招致合戦と同じように)自治体同士が争わなければならないという構図にならざるをえないという点が建設的でないばかりか、競争による疲弊を生んでしまっています。
このように「コンテンツ・ツーリズム」には多くの可能性があるとともに、弱点や課題があることも事実です。
これらの課題を解決するために、「観光圏」という考え方も定着してきました。
つまりひとつの自治体だけでなく、周辺自治体が連携してトータルでの魅力向上をアピールするというものです。
ぼくはこの「観光圏」はとてもいい取り組みだと思っています。一か所だけでは観光客を呼ぶには魅力が足りない地域同士が連携することで、そこに出かける目的やきっかけを創発し、さらには(見たり体験したりする場所が増えることで)宿泊を伴う旅程を提案できるというのは観光振興や観光圏の発展にも貢献できると思います。
つながり(文脈)を旅する「コンテクスト・ツーリズム」
それをさらに推し進めた考え方が「コンテクスト・ツーリズム(Contexts tourism)」で、複数の観光スポットを「ある文脈(=コンテクスト)」で繋ぐことで、ストーリー性のある旅をすることを指します。さらに次回以降の旅行の提案にまで踏み込んだものです。
「観光圏」における地域同士のつながりが「田舎暮らし体験」や「パワースポット巡り」といった地域の気候や風習を軸にしたテーマであるのに対して、より踏み込んだ文脈を設定するのが「コンテクスト・ツーリズム」です。
具体的なコンテクストとしては、「織田信長、上洛の軌跡」や「築城名人・黒田官兵衛が築いた城」のようなもので、とくに攻城団では歴史的な背景をもとにした文脈を想定、重視しています。
たとえば「織田信長、上洛の軌跡」の場合、愛知県の清洲城や、岐阜県の岐阜城、滋賀県の安土城をはじめ、京都における本能寺、あるいは合戦地となった「桶狭間」や「姉川」、「長篠」といったエリアも含めた旅程を提案することができます。
日本人の多くの旅行は1泊2日もしくは2泊3日程度といわれますが、当然これだけの場所を一度の旅行で巡ることは不可能ですから、二度三度の旅行にわけて巡ることになります。
つまり「コンテクスト・ツーリズム」は「観光圏」のように周辺地域をまとめるだけでなく、複数回の旅行を通じて遠隔地にあるスポットを結びつける効果が狙えます。
これは日本人の年間旅行回数を押し上げることにつながるでしょう。
また、ぼく自身がそうだったのですが、城や歴史の場合、まさに芋づる式のようにコンテクストが連鎖していきます。
大河ドラマやゲーム、あるいはマンガで興味を持った人が、関連する城や武将について学んでいくことで、さらにほかの城に興味が広がっていきます。旅先で(あるいは旅行後に)あらたな知識を得ることで、さらに新しいコンテクストにそった旅行に出かけたくなるという好循環が生まれます。
この図をつくったのは2014年(平成26年)ですが、いまだと「刀剣」なども入口になるでしょうね。
コンテクストを見つけられれば、すべての観光地はライバルではなくパートナーになれる
このように「コンテクスト・ツーリズム」の可能性は、観光産業の活性化に繋がる「旅行のきっかけづくり」が何通りも実現できる点にあり、遠隔地も含めた各地域が連携しやすくなる点にあります。
そして、その結果として国民の年間宿泊日数や年間旅行回数の増加が見込めます。
攻城団ではこの「コンテクスト・ツーリズム」を推進するべく、「バッジ」と呼んでいるテーマ別お城リストを整備するとともに、合戦地や城下町巡りも含めたツアーの提案をおこなっていきたいと考えています。