戦国時代を代表する戦いのひとつ、川中島の戦い。
甲斐の虎・武田信玄と越後の龍・上杉謙信という2人の名将がぶつかったことで有名なこの合戦のハイライトとして、総大将同士による一騎打ちという非常にワクワクするエピソードが伝えられている。
今回はこれを紹介しよう。
信玄と謙信が信濃の支配権をめぐり5度にわたって争った川中島の戦いは、そのほとんどがにらみ合いや小競り合いに終始した。
しかし、一度だけ激烈な合戦に発展したことがあった。
いわゆる第四次川中島の戦い、通称「八幡原の戦い」である。
この戦いは最終的にひどい乱戦になった。
武田軍は上杉軍を挟み撃ちにするべく2手にわかれたのだが、これを察知した謙信が信玄のいる本隊を奇襲したからだ。
そして、この際に「謙信が自ら馬を駆って信玄の陣に突入した」というのである。
刀を振りかざし、武田本陣の守りを突破して「ここにいたか」と叫びつつ信玄に迫る謙信。
これに対し、信玄は手に持っていた軍配をとっさに掲げてその斬撃をかわす。
2度3度と繰り返すうちに武田家臣団が主君を助けにやってきて、総大将同士による一騎打ちは終わった……。
その後、戦い自体は引き分けに終わった。
武田本隊が堅固に守って上杉の攻撃をはねのけているうちに別働隊が到着し、さすがに不利と諦めた謙信が引き上げたからだ。
――とまあ非常にドラマチックなエピソードではあるが、さすがにこれは後世の創作と考えるべきであろう。
総大将自らが単騎で敵本陣に突っ込むというのはあまりにも非現実的で、いくら乱戦といえどそんなことが可能だったとはとても思えない。
謙信と親交があった関白・近衛前久が手紙で「自身太刀討ちに及ばるるの段~(自ら太刀をもって戦われたとのこと~)」と褒めた事実などが肯定材料として提示されることもあるが、これについても「単に謙信の武勇伝を語っているだけで、一騎打ちのこととは限らない」といえてしまう。
ともあれ、謙信という人が「一騎打ちをしてもおかしくない」くらいの人物として後世に信じられた超人物であったことは事実であろう。