先日、このようなニュースがありました。
平成の大修理を終え、3月27日に再オープン予定の姫路城の入城料が1000円になるという話です。
姫路城の入城料が1000円に 国内の城郭で最高額
姫路市は14日、「平成の大修理」を終え、来年3月27日から再公開する世界遺産・国宝姫路城の入城料について、18歳以上千円、小中高生300円に改定する方針を示した。21日開会の定例市議会に条例改正案を提出する。
(中略)
値上げで年間約3億円の増収が見込まれ、市は、展示の充実や石垣、防災設備の維持管理などに充てる。市姫路城管理事務所の石川博樹副所長(49)は「世界遺産を将来に引き継ぐため、負担をお願いしたい」と話す。神戸新聞NEXT|社会|姫路城の入城料が1000円に 国内の城郭で最高額
なお、一部の報道で「400円から1000円に値上げ」と書かれているものがありますが、姫路城は2010年4月には修理に伴い天守に入れなくなることを考慮して、入城料を600円から400円に過渡的に下げていますので、あくまでも600円からの値上げと受け止めるべきです。
400円からだと「2倍以上」という印象を与えてしまいますのでアンフェアですよね。ちなみに引用した神戸新聞では正しく書かれていました。
(ただし工事期間中に設置された見学施設「天空の白鷺」の入場料が200円ですので、実質的な金額は400円+200円で同じでした)
記事によれば、「21日開会の定例市議会に条例改正案を提出する。」ということですので、まだ決定ではないようですが、価格改定の理由としては大きくふたつが考えられると思います。
今回はこの両方の理由が該当していると思われますが、これらを意識しながらネット上で公開されている数字を追ってみたいと思います。
今回の修理にかかる事業費は28億円(素屋根工事費:12億6千万円、補修工事費:15億4千万円)と見積もられていますが、その償却とは別に姫路城の維持管理費用が毎年かかっています。
(今回の修理も毎年の維持管理も国からの補助金が出てるようです)
姫路城の維持管理にかかる詳細な予算額はわからなかったのですが、同じ国宝の彦根城の場合、主だった費用を合算しただけで4億円以上となりますから、姫路城の場合は敷地面積や保存された建築物の数を考えても同等額以上の維持管理費用が発生しているものと思われます。
項目 | 25年度予算 |
---|---|
維持管理費用 | 286,876,000円 |
玄宮園保存整備 | 86,925,000円 |
彦根城博物館管理運営 | 65,418,000円 |
これら以外にも石垣の修復費用や土地の取得や維持費用、市史編さん費用などの予算があります。
なお、新発田市議の方が書かれた2001年頃の視察レポートによれば、「(姫路城は)年間5億円の維持費用が必要」とありましたので、おおむね5〜6億円程度の維持管理費用が必要であることはまちがいなさそうです。
加えて、姫路城では一年中どこかで工事されていますが、これは修繕すべき建造物が多いことに加え、職人を確保して育成するためであると聞いたことがあります。
こうした歴史的建造物を遺すための伝統技術を守るためにも、「職人の仕事をつくりつづける」というのは大事なことでもありますね。
報道によれば、今回の料金改定で「年間約3億円の増収」を見込んでいるそうですから、この増収によって姫路城の管理運営が(国の補助の依存度を下げて)より自立していけるといいですね。
さて、3億円の増収とありますが、今回の料金改定が、大人が400円、子どもが100円の値上げであることを踏まえると、さらに大人の入城者の割合が6〜7割程度であると仮定すると、ざっと100万人の有料入城者を見込んでいると逆算できます。
ここで過去の姫路城の入城者数を調べてみました。
年度 | 入城者数 |
---|---|
16年度 | 770,565 |
17年度 | 778,458 |
18年度 | 899,602 |
19年度 | 1,023,307 |
20年度 | 1,195,004 |
21年度 | 1,561,602 |
22年度 | 不明 |
23年度 | 610,505 |
24年度 | 710,000 |
世界遺産に登録されたのは、1993年(平成5年)12月11日ですので、この期間外です。
修理前の平成21年度(約156万人)がピークになっています。
リニューアル効果も考えると、この水準以上に入城者数が回復すると思うので、先の見込み(100万人)は低めの予測であると思います。
ただし、おそらくは料金改定によって訪問を控える方が出るだろうと考慮しての予測なのでしょう。
じつは入城料を高くする効果のひとつが来場者の抑制で、これは安全管理のためには非常に重要です。じっさいディズニーランドでも年末などは入園制限をかけることがありますが、施設のキャパを超える人数が入ってしまうと事故が発生する確率が高くなってしまいます。
最近は竹田城でまさにこの問題が表面化しているわけです(落下事故なども起きていますね)。
姫路城の場合は竹田城のように山城ではありませんし、崖から落ちるようなことはないのですが、天守内は狭いですし、階段もかなり急なつくりになっていますから、やはり収容人数ということを念頭に置いておかなければ危険です。
(当然、安全管理のための警備員などの人件費も必要になります)
姫路城の適切なキャパが何人なのかはわかりませんが、おそらく修理前のピークではかなり運営側が不安を感じられていたのではないかと思います。
そういう意味でも100万人程度に収まるように入城料を上げることはマーケティング的にも正しい施策です。
こうした「お客さんが来すぎない」ようにすることを専門用語では「デ・マーケティング」と呼び、上高地などの自然保護・景観保護が必要な観光地ではすでに実施されています。
最後に、全国のほかのお城の入城料と比較して、姫路城の入城料が高いかどうかを考えてみます。
比較対象は姫路城と同様に国宝天守である彦根城、犬山城、松本城。
それから3名城や5名城でくくられる大阪城、名古屋城、熊本城(江戸城は無料なので除外します)。
そして世界遺産である首里城と、参考までに最近観光客が急増して来場者の抑制や整備が必要とされている竹田城も追加しておきます。
城名 | 入城料(大人・一般) |
---|---|
彦根城 | 600円 |
犬山城 | 500円 |
松本城 | 600円 |
大阪城 | 600円 |
名古屋城 | 500円 |
熊本城 | 500円 |
首里城 | 800円 |
竹田城 | 300円 |
ほとんどのお城が500円〜600円となっており、姫路城の600円もそれにあわせた料金設定だったのでしょうが、国宝であり世界遺産でもあるお城は姫路城だけですし、姫路城が名実ともに日本を代表するお城であることを踏まえると、むしろ安すぎたのかもしれません。
価格の決定は、一般的には「需要と供給」で決まるといわれますが、もうひとつ「競合との比較」で決まることもあります。ファーストフードもそうですし、ケータイの電話料金や公共交通機関の運賃なども後者のルールで決まりますね。
(一方で竹田城の300円は需要と供給を考えると安すぎると思います)
そういう意味でも姫路城の入城料は日本でいちばん高くていいですし、むしろ率先して値上げしていくことで(そしてその収益を適切に城郭の保全や整備に充てることで)ほかのお城も入城料を上げやすくなればいいなと思います。
ぼくも含め、多くのお城好きはお城の観光地化を望んではいないと思います。また現実問題として、入城者数が無限に増えていくことはありえません。
だけど、お城の維持管理にはお金がかかる以上、収益化は必須ですし、お城の運営が自立できるよう(税金等による補助を受けなくてもいいよう)にしなければなりません。
そして入城料の相場が上がることで収支の見込みが立てやすくなり、これから復元整備に着手される地方自治法が増えれば最高ですよね。
長々と書いてきましたが、まとめると
今回はネットで公開されている資料を調べただけですが、いずれはもっとしっかり取材なども行えるといいなと思っています。
あと姫路城に関しては所有者は国(文部科学省・文化庁所管)で、姫路市は維持管理を委託されているので、税金の投入はある程度妥当性があると思います。
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