木曜から榎本先生の連載「戦国軍師入門」をブログで公開していきます。
この連載も過去に出版された『戦国軍師入門』をもとに再編集したものです。
大河ドラマやゲームの影響もあり、ついついぼくらは戦国時代には軍師と呼ばれる知恵者がいて、彼らが策略を駆使して敵を罠にはめたり、あるいはそれを見破ったりといった活躍をしていたと思いがちです。
しかしそのエピソードの大半は創作であり、どうやら「軍師」と呼ばれる人たちの実態はイメージとはかなり異なるようです。
とはいえ、いつの時代にもリーダーには良きアドバイザーがいたこともまた事実で、その役割は必ずしも武将が担ったわけではなく、ときには僧侶などもその立場にあったようです。太原雪斎や安国寺恵瓊などは有名ですね。
この連載では戦国時代における軍師の虚像と実像について、丁寧に説明していただいています。
読み終わったあとには軍師のイメージや大河ドラマの見方が少し変わるかもしれません。
最後に榎本先生からコメントをいただけたのでご紹介します!
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軍師の活躍とはどのようなものだったのでしょうか?
多数を少数で破った派手な話から、地道な努力の積み重ねに始まる地味な話まで、じつに多くの逸話が戦国時代に残っています。
そんな中、ふたりの名将とそれに従う2ふたりの名軍師が知略を戦わせた、実にド派手な合戦の物語があるのをご存知でしょうか。それは「第4次川中島の戦い」――甲斐の名将・武田信玄と越後の軍神・上杉謙信が信濃を巡って川中島で繰り返した戦いの四度日、さまざまな伝説で彩られた合戦のことです。
この戦いにおいて謙信は妻女山に陣取り、対する信玄は海津城に兵を置きました。そして、まず動いたのは信玄でした。軍師・山本勘助が提案した「啄木鳥(きつつき)作戦」により、別働隊を派遣して妻女山の上杉軍を山の下に攻め落とし、そこを自分の率いる本隊で迎え撃とうと企んだのです。
ところが、霧の立ちこめる中、待ちかまえていた武田本隊の前に現れたのは、準備万端の上杉軍でした。なんと謙信の軍師・宇佐美駿河守は勘助の作戦を完全に読み切り、先手を打って兵力を分割した武田軍を各個撃破しようと企んだのです。
勢いに乗る上杉軍は武田軍を圧倒します。
とくに謙信は自ら馬を駆って武田本陣に攻め込み、信玄と一騎打ちまで演じてみせましたが、そこに援軍が到着します。作戦を逆手に取られたことに気付いた勘助たち別働隊が急ぎ妻女山を経由して駆け付けたのです。
さて、戦いの決着はいかに――。
この「第4次川中島の合戦」における流れは信憑性が乏しく、両軍の軍師もじつは実在が危ぶまれているのですが、大河ドラマなどでも取り上げられたため、ご存知の方も多いと思います。
では、彼ら軍師たちの活躍は他にどのようなものがあったのでしょうか?
そもそも軍師とはいったいどんな存在で、後世の私たちが持つイメージは本当に正しいのでしょうか?
軍師たちが活躍した戦国時代は、日本の各地で大小さまざまな勢力争いが起きていた戦乱の時代です。
鎌倉時代以前から力を持っていた公家や寺社という旧勢力と、鎌倉時代・室町時代と武家政権の時代を経るにしたがって力を蓄えてきた武士が激突し、最終的に武家による絶対的な支配政権である江戸幕府が誕生したのがこの時代でした。だから、武士や公家・僧侶だけでなく、さまざまな身分の者たちが活躍して、とても魅力的な時代です。
そんな戦国時代を「軍師」というキーワードで読み解いていきましょう。
現代の資本主義社会が「武力を用いるかどうか」という点を抜かすと、じっさいに行われていることは戦国時代にとても近いと言ったら驚かれますか?
でも、会社の売り上げを増やし、コストカットと組織のシステム作りを行い、拠点を増やしていくというのは、戦国大名が、城(拠点)を増やし、経済活動を行い、家臣団を整備していくことと、本質的には同じことなのです。
また、大名は企業グループの総帥、というように見ることもできます。その下に大小さまざまな企業が傘下として加わっている様は、大名の下に有力な豪族や将が従っているのとよく似ています。
以上のようなことを視野に入れつつ、戦国時代の勢力構造の中で軍師たちがどのように生きて、そして活躍したのかを見ていくことにしましょう。
本連載は全体で3つの内容を追っていきます。
まずは、そもそも軍師とは何者か? そして、戦国時代の勢力とはどうなりたっていたのか? ということを説明します。
次に、戦国時代の花形であり、勢力拡張の主要な手段だった合戦の中でも、とくに軍師が主導的な役割を果たしたものを紹介します。
最後に、実際にどんな軍師がいて、彼らはどんな活躍をして、どんな生涯をすごしたのかの実例を見ていきましょう。
なお、本連載は幻冬舎新書より刊行された『戦国軍師入門』を再構成したものです。この点、ご了承ください。