桃崎先生が書かれた「平安王朝と源平武士-力と血統でつかみ取る適者生存」の中で本書について触れていたので、遡って読んでみました。
正直言ってこれまで武士の生い立ちについてあまり関心がありませんでしたが、鎌倉・室町・江戸時代の中心となっていく武士が、どのような生い立ちで生まれてきたのか、この本を読んでなんとなく解ったような気がしますし、武士の生い立ちについて興味を持てる様になったと思います。
今、すべての攻城団員に問う。
「武士の起源とは?」
武士とは何かも知らないで、やれ侍ジャパンだのサムライブルーだの武士道精神だのと言っている日本人のなんと多いことか。
しかし、この書物を紐解けばわかります。
私がまだ、かわいらしい少年だったころ、学校の授業で習った坂上田村麻呂(蝦夷を制圧、アルテイを生け捕りに)や藤原秀郷(平将門の乱を鎮圧)について、素朴に疑問に思った。
「この人たち、何でこんなに強いん?」
朝廷からの命令を受けて派遣されたこの人たちは「貴族」である。「貴族」であれば、蹴鞠や和歌や、麻呂でおじゃるの世界だ。それなのに、方や対外戦争に勝利し、方や板東一円を力で制した将門を破った。「何で?何で勝ったん?」
その疑問が、本書を読むことで、スッと解消することになろうとは!(ただし、田村麻呂も秀郷も本書でいう「武士」の定義には足りていない。)
著者は、「武士とは何か」「武士の起こり」といったタイトルで習う教科書的知識、「地方の富裕農民が成長し、土地の自衛のために一族で武装し武士となった」説はでたらめで、「都の武官から生まれた」説も確証がないと切り捨てる。そして、奈良時代・平安時代の中央・地方の実情を丹念に読み解き、「武士」を定義づけていくのである。
平安朝期の地方がいかに「ヒャッハー!」な時代であったかは本書を読んでいただくとして、「武士」の定義である。
「武士」はあくまで「武『士』」である。これは、「儒教の『礼』思想が理想とする、周王朝の身分秩序=王・公・卿・大夫・士に由来する」ので、武士はあくまで貴姓でなければならない。およそ「大夫」が五位以上であるので、それ以下かつ無位でないことが条件となる。このため、どれだけ実力があっても農民が武士たり得ることはなく、都の武官であれば、殿上人(四位以上)となり、やはり「武士」とは言えないのである。
また、著者は、「武士の役割とは、武芸を磨き、戦で勲功を挙げ、主君のために討ち死にすること、それらの責務を果たすべき家に生まれた自覚を保ち、磨き、名を惜しむ(世の評価を重んじる)こと」、(武士の)「武芸は『弓術』だった。それは、弓矢が最強の武器で、それゆえに最も習熟困難な武器だった」と説き、武芸に専念できる環境、経済的バックボーンが必要で、他の職業と掛け持ちできる代物ではないと断じるのである。
そこで、本書のサブタイトル『混血する古代、創発される中世』につながってゆく。何がどう混血し、中世になって、何が創り出され、武士がどのように誕生するのか。詳しくは本書をお読みいただきたい。
著者によってもたらされた結論も諸説のうちの一説であり、今後、専門家による検証や批判を待たねばならないが、個人的には、非常にスッキリとした爽快な読後感を得ることができ、良書に巡り合った喜びに浸ることとなった。
タイトル | 武士の起源を解きあかす――混血する古代、創発される中世 (ちくま新書) |
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著者 | 桃崎 有一郎 |
出版社 | 筑摩書房 |
発売日 | 2018-11-06 |
ISBN |
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価格 | 1058円 |
ページ数 | 334ページ |
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