観光庁を訪問してDMO候補法人構想について質問してきました

11月に観光庁にいってきました。DMOのことを知ってから、周囲に「DMOに詳しい人いませんか?」とか「ねぇ、DMOの勉強会やらない?」と声をかけてはいたものの、情報が少なくて、具体的なインプットができないままに日々を過ごしていました。

そしてこれはもう「観光庁に直接聞きにいったほうが早いんじゃないか」と考えました。最初にアプローチしたのは去年の12月だったのですが年末ということもあり日程調整ができずに、ようやく訪問することができました。

国土交通省の外局として、海上保安庁とおなじだったんですね、ぜんぜん知らなかった……。

入館の手続きをおこなうとIDカードをもらいました。

この日は、観光地域振興部の長田さんにお時間をいただき、あれやこれやとお伺いすることができました。

用意していただいてた資料を見ながら、ひと通り説明をお聞きしたので、さっそく「DMOという組織をつくろうという発想がでてきた背景ってなんですか?」と尋ねてみました。
DMO候補法人のことを知ったときに、おなじく目に入った「観光立国」という言葉には見覚えがあるなぁと思って調べたら、2003年(平成15年)1月に小泉純一郎首相(当時)が宣言していたんですよね。
キャンペーン的なポスターを地下鉄などで見かけた記憶がありました。DMO候補法人をつくろう、という発想はその頃からあったのかな、と思っていたのです。

「いや、違うんです。」と長田さんから意外な答えが。

「DMO候補法人を設立しようという動きは、日本再興戦略のなかにある『地方創生』の枠組みのなかで、動いているんです」

日本再興戦略ってのは内閣府から発表されている成長戦略のことです。
毎年更新されていて、いぜん読んだことがあります。たしかにこのなかに「観光立国の実現」という施策が掲載されていました。

つぎに前々から気になっていた「DMO法人」ではなく「DMO候補法人」と、名称に「候補」がついているのはどうしてなのか、と質問しました。

「DMO法人、という法人組織は、これから立ち上がってくるために、現在は『候補』をつけています。いま登録申請をしていただいている各団体は、DMO法人の『候補』という意味ですね」
「現時点で法人登記されておらず、これから法人をつくる計画です、という段階でも申請があれば承認登録されることもあります」

なるほど。だから現時点で法人登記がされていなくて、(設立予定)という申請でも一覧登録されているんですね。

背景と申請についてお聞きしたので、つづいてDMO構想の狙いについて伺うことにします。
訪問時点でDMO候補法人は101社ありましたが、候補法人をどのくらいまで増やしていく考えでいるのでしょうか。

「DMO候補法人の登録は今後もどんどん推進していく予定です。ただし候補法人を増やすことが目標ではないんです。将来的には世界水準のDMO法人を100社つくることが当面の目標です」

世界水準ですか。その水準はどういうものなのか知りたいですね。

「国内ではまだDMOの前例がありません。言葉が先行している面もありますが『世界水準』にむけた国内の基準づくりはこれからはじまります」

まずは形式をつくったうえで、基準を設計していく方向のようです。
各地のDMO候補法人が動き出していけば、それにともなって基準ができていくのでしょうね。そのなかで「候補」が取れて「DMO法人」になる組織が現れることを期待している、ってところでしょうか。

基準というと、ぱっと浮かぶのは経営執行体制、決算情報の開示体制などをはじめとしたことが浮かびます。こうした情報公開の基準も策定されていくのでしょう。
用意していただいた資料にも

2020年までに正解水準DMOを全国で100組織を形成するため、「3本の矢」による地域支援を実施

と明記されています。

しかしですね、各地には従来から観光協会や観光コンベンション協会、観光課といった組織があります。あらたに観光振興を推進するDMO(候補)法人という組織をつくるときに、このままだと地域内で競合組織ができてしまうんじゃないでしょうか。
このあたりの住み分け、役割分担はどうしていくのでしょうか。長田さんにこうした疑問をぶつけてみたところ、現状を教えていただくことができました。

「現在、DMO候補法人に登録申請してくる組織をわけると、だいたいふたつのパターンになります。ひとつは現在ある観光協会や観光課を母体として、DMO候補法人を組成するケースです。もうひとつは観光協会や観光課はそのままに、あらたたにDMO候補法人を組成するケースです」
「後者のケースでは、新設するDMO候補法人と、既存の組織で業務内容の住み分けを、地域内でおこなってもらいます」

話し合いで決めるなんてことが現実にできるのかはさておき、ここでDMO候補法人のリストを見ながら気になったことを聞いてみます。

「ひとつの県にひとつのDMO候補法人ができるようなことを当初はイメージしていたのでしょうが、DMO候補法人に登録された団体の住所をみると、けっこうかぶっているところも多いですよね」

うんうんとうなずきながら長田さんは答えてくれました。

「そうなんです。たとえばこの県には県内全域を視野にしたDMO候補法人と、特定の市を対象にしたDMO候補法人があります。県と市で役割が異なるように、DMO候補法人同士で、業務内容の住み分けをおこなっていけばいいのです」

たしかに自分たちの組織がプロモーションする地域は市内なのか県内全域なのかでぜんぜんちがってきますよね。そういわれると県単位と市単位、さらには〇〇地方というエリアでくくったDMO候補法人があってもおかしくはないわけですね。

「そうです。それとおなじように同一市内で、既存の観光協会や観光課を残してDMO候補法人を新設したとしても、その『業務内容の住み分け』を適切におこなっていってもらえれば、と考えています」

これが観光庁の目論見通りうまく住み分けができて機能するかは数年後にははっきりすると思いますが、ぼくの住む石川県でいえば金沢以外に観光客を呼ぶような施策は県がおこなうべきですし、団長の住む兵庫県でも姫路や神戸のある県南部と城崎温泉などがある県北部をひとくくりにはできませんしね。
県や地方の大きなエリアと、市を中心とした小さなエリアではおのずと役割も変わってくるということでしょうね。

また、DMO候補法人設立にあたっては、自治体の参加が必須になっているのですが、この点についても質問しました。

「観光は公的な取り組みや、文化財といったさまざまな資源も関係してきます。公益に貢献する面もありますので、行政との連名で申請することが大前提になっています」
「ですので、DMO候補法人を設立して、地域の観光振興を推進していくかどうかについては自治体トップの方針に左右されます」

そして「DMO候補法人を設立するにあたっては、地域の合意形成がいちばん大切になるんです。」と長田さんはすこし笑みを浮かべながら話されました。

じつはこの日「合意形成」という言葉を何度も聞きました。
合意形成を事前におこなうからこそ、業務の住み分けも明確にしておくことができるのでしょう。では合意形成について「こういうカタチが好ましい」といった観光庁からの指針はないのでしょうか。

長田さんは「ないです」とあっさりした答え。
これにはぼくも少し拍子抜けした感じでした。どういう方針でDMO候補法人を設立するのか、観光振興をおこなっている既存の組織はどうするのか、といったことはすべて各地域の自由裁量に任せるそうです。各地の状況や考え方によってDMO候補法人の運営方針を決めてもらえればいいということでした。

たしかに各地域によって置かれた状況はさまざまですから、画一的に決められるものではありませんし、むしろ「みんなちがう」ところをスタートにするからこそ観光にマーケティングを導入できるのだとも思います。個性や差別化の話ですね。
同時にこれまでいくつかの自治体や観光協会と話をしてきた経験からいえば、真逆に近いことを求められているのも事実で、そう簡単ではないだろうなと思いました。

そこでソフトに(というかハッキリと)「自治体が主導で、稼ぐ仕組みをもった組織がつくれますかね?」と聞いてみました。
長田さんからは、明確な口調でこんな答えが返ってきました。

「いままでの観光にはマーケティングという概念がありませんでした。勘と経験を頼りに、いろんなものをつくってきていました」
「残念ながら、それではもうすでに観光振興はむずかしくなっています。地域に来てくださる観光客を増やし、リピートしてもらうためには、きちんとしたマーケティングプランの立案とPDCAを意識したプロモーションをおこなっていく仕組みを組織がもたなければいけないんです」
 

ぼくは「その仕組みはどうやって組織に定着させていくんですか? できる人がいるなら、今の時点でも取り組めているはずですよね」とさらに質問しました。

「そのため、DMO候補法人設立にあたって、自治体の参加が必須になっていることとおなじように、データマネジメントやマーケティングの専門家を選任職員として、DMO候補法人で雇用するのが絶対条件になっています」

DMO候補法人がマーケティング・マネジメントを実践していくための支援も観光庁を中心に今後整備を進めていくそうです。

DMO候補法人を新設して、観光振興に取り組んでいくというのはそう簡単なことではありません。最近は求人サイトなどでマーケティング責任者を募集しているケースも見かけますが、知識や経験のある人を採用して、その人が能力を最大限発揮できる環境をつくるということは並大抵のことではないと思います。
でもその大変さこそが、あらたに組織をつくっていく醍醐味のひとつでもありますよね。そしてみんなが大変だと思う状況は、むしろ前向きにがんばろうとしている人たちにとってはチャンスでもあります。

観光が地域経済に及ぼす影響についても聞いてみました。

「DMO候補法人をつくることで、地元の人や一般の観光客にどういう影響があるかということですが、まず観光産業というと、交通や宿泊施設、お土産さんといった業種だけのことと思われていますがそうではないんです。観光振興が地域におよぼす経済効果はとても範囲が広いものです。最近は『交流人口』という考え方も出てきましたが、過疎化(人口減)の対策として観光に期待する動きもあります」

ここまでお聞きして、なんとなくぼんやりしていた輪郭がクッキリしはじめてきました。
観光に来てもらうためのマーケティングをDMO主導でおこない、そのためのハード・ソフト両面の整備を地元で進めていき、地域の産業を刺激します。そうすればあらたな雇用もうまれます。こうしたサイクルづくりが期待されていることのようでした。

最後にいちばん気になっていた、DMO候補法人の運営資金がどのようにまかなわれるのかについてたずねました。

「補助金や助成金といった金銭的な支援もありますが、財務面をどのようにするかも各DMO候補法人に任せています。DMO候補法人を組成する時点で、自治体が中心になって観光関連事業者が集まります」
「各団体、たとえば商工関連団体や地域金融機関、交通関連会社、宿泊施設等の関係者などの地域の各団体が出資することによってDMO候補法人は組成されます。そして収益事業がないとお金は入ってきませんから、資本金はどんどん減っていきます」
「そこで事業計画として『収益事業をおこなうのか』『おこなうとすれば何に取り組むのか』『それはどのくらいの規模にするのか』を計画する必要が出てきます」

民間の企業がおこなう収支計画作成ですね。

「ただし100%収益事業でまかなわなければならない、というわけではありません。DMO候補法人への支援のひとつに地方創生交付金などの補助金もあります。また参加団体による年間の賛助資金計画だとか、会員費収入といったことも考えられます。自らの活動に必要な資金をどのようにまかなうのかについても、各DMO候補法人にお任せしています」

1時間ほど長田さんにお話をお伺いすることができて、「運営方法について」「なにを重要して組織を運営するのか」といった公開されている資料以外のことを理解することができました。

全国各地にDMO候補法人が増えて、それぞれがマーケティングに取り組む――自分たちの魅力を分析し、それを広く伝える――ことで、いままら知らなかった地域の情報を知るきっかけになるかもしれませんね。

長田さんの話を振り返りながら、攻城団とDMO候補法人の関係も考えてみました。
最初にDMO候補法人のことを知ったときは「攻城団そのものが、全国のお城を対象にした広域DMOになるんじゃ?」と想像したこともありました。しかしいろいろ調べたり、今回訪問して話をうかがったことで「それはちがうな」と改めて認識しました。

(前回の記事でも書きましたが)攻城団は「DMO候補法人のマーケティングパートナー」という立ち位置がいちばんしっくりきますね。それも単発ではなく中長期にわたって継続的に支援するパートナーです。

「お城が好きで、旅行に出かける」人に対して、「そこにあるお城の魅力をきちんと伝えて訪問してもらう」ためのプランニングや、マーケティングサポートをぼくらはおこなえると思うのです。
攻城団が提唱するコンテクストツーリズム=バッジはその一例ですが、ほかにもイベントだったり、「城メモ」や「城たび」などのコンテンツ制作と配信など、いままさに七尾でおこなおうとしている取り組みがぼくらが提供できるメニューになります。

攻城団のサイトにはいまでも各地の観光協会などからいただいた写真や記事が掲載されていますが、今後もっと増やしていきたいと考えています。たとえばお城でおこなわれるお祭りのレポートなどは団員のみなさんに書いていただきたいですし、各地域の旬の情報を全国に届けたいと思っています。

以前、こうの団長が「情報の逆流と再配信」という話をしていました。
団長の地元のフリーペーパーに近くにあるお城のニュースが載っていたそうです。それは地元にしか伝わっていない情報ですが、お城が好きな人であればどこに住んでいても知りたい情報ですよね。
「それは全国に配信すべきニュースか」の判断は事件の大きさだけで測れるものではありません。99%にとっては不要かもしれないけど、1%の人はとても知りたがっている情報こそ、インターネットを通じて全国に届けるべきです。

「地域の情報を逆流させて、必要な人に再配信する。地元しか知らない情報、だけど全国のどこかにそれを知りたいと思う人がいるような情報を攻城団ではひとつずつきちんと拾って届けていきたい」と団長は話していました。
ぼくらがイベント情報をフォローしているのもその一環です。新聞の地方版や地元のフリーペーパーにしか載らないような情報ですが、みなさんはきっと知りたいですよね。

全国に情報を届けようとすると、ものすごくお金がかかります。
そしてお金をかけたからといって、興味のない人にとってはノイズでしかないということもシビアな現実です。釣りでも囲碁でも趣味についての情報はそういうものです。
まさにマーケティングの観点からいえば、「いかに興味を持ってくれる人にだけ届けるか」が大事なことで、攻城団はその部分をうまく手伝えるパートナーになれるなと、ひとり考えながら霞ヶ関駅をあとにしました。

長文レポートを最後まで読んでいただきありがとうございました。
来年はDMO候補法人の方にも話をうかがいにいきたいと思っています。それではみなさん良いお年を!

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攻城団では常にプロモーションする側(みなさま)とされる側(読者・利用者)の双方が納得し、また最大限の効果を発揮できるよう、細部にわたるまで入念に企画を立案いたします。検討の結果、お断りせざるを得ないこともありますが、まずはお問い合わせください。
また常に新しい取り組みを模索していますので、掲載されていない施策についてもお気軽にご相談いただけますようお願いいたします。
みなさまのブランドを毀損することなく、ファンの拡大につながるように我々にお手伝いさせてください。

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