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【殿様の左遷栄転物語】名将の息子の愚かさが潰した 会津藩加藤家

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豊臣恩顧ながら幕府に信頼される

福島正則や加藤清正と同じく豊臣秀吉のもとで活躍し、七本槍にも数えられた加藤嘉明(かとう よしあきら)を祖とするのが、会津藩加藤家である。
もとは松平(徳川)家に仕えていたものの、嘉明の父・教明が三河一向一揆に加担して徳川家康に反旗を翻したため、国を離れることになった。その後は将軍である足利義昭、そして秀吉へと主君を替えた。しかし秀吉の死後、徳川家康に急接近、関ヶ原の戦いでは東軍に属して戦っている。

1627年(寛永4年)、陸奥国会津藩の藩主・蒲生忠郷が子のないままに死去したため、代わって嘉明が40万石を与えられ、会津に入ることになった。
この地はかつて秀吉が五大老の1つである上杉家を配置し、また徳川家が家康の孫にあたる忠郷を配置したことからわかるように、東北の大名たちに呪みを利かせるための重要な場所であった。特に野心旺盛と見られた仙台藩伊達家に対する押さえという意味合いが強かったのではないか。

そのような場所に配置されたのだから、嘉明が如何に幕府から信頼されていたかわかるが、わずか4年後にこの世を去り、息子の明成(あきなり)が跡を継いだ。

城の改築に熱中し、重臣を怒らせる

残念ながらこの明成は父と比べて凡庸な人物で、愚行が目立った。一分金(当時の金貨)の収集に執着し、「加藤一分殿」などというあだ名をつけられたのは、大大名としてはあまり感心した行為とはいえない。
また、会津若松城の改築にも熱中し、これをきっかけに重臣の中でも筆頭にあたる存在の堀主水(ほり もんど)との間の溝が深まっていった。それが加藤家改易の引き金になってしまう。

決定的なのは、主水の家来と他の重臣の家来が喧嘩するという事件が起き、それを明成が裁定した際のことである。実際は相手に非があったにもかかわらず、明成は「主水の家来が悪い」と判決を下したのだ。多分に私怨もあったのではないだろうか。主水はこれに不服を訴えたが、返ってきたのは家老職の取り上げであり、謹慎処分であった。
この処分に、ついに主水の怒りが爆発した。

1639年(寛永16年)、主水は主君・明成が留守にしている間に、従者や一族など三百余人を引き連れて城に鉄砲を撃ちこんで会津から逃亡したのだった。
すぐに追っ手が向かったが、主水らは途中にある橋を焼き払って追撃できないようにしていたため、引き返すしかなかったという。

これを知った明成は激怒し、主水が妻子を預けた鎌倉の東慶寺や彼自身が逃げ込んだ高野山に家臣を遣わして、その身柄を引き渡すように命じる。さらに幕府に「会津40万石に代えても主水らの捜索つかまつりたい」と願書を出した。まったくもって浅薄としかいいようがないこの願書が、のちに明成の運命を決めることになる(むろん現代においても、後に残る文書には要注意)。

2年後、幕府の命で江戸に出向いた主水は、「反逆を企て、豊臣秀頼と通じていた」とか、「幕府に無断で新関を設けた」など、明成の悪事を七カ条に記して幕府に訴えた。しかし幕府は「たとえ主君が悪事をなそうとも、それを諌めるのが家臣の役日であった」として、主君に背いた主水に非があるとの裁定を下した。
結局、主水の身柄を手に入れた明成は、彼を乗せた興を揺らし続けて眠らせないようにするという拷間を加えた上で斬首刑に処し、さらに妻子を皆殺しにした。

軽々しい言葉の代償は改易

明成はそれですっきりして満足したかもしれないが、このように愚行を繰り返す大大名を、幕府が放っておいてくれるはずもなかった。加藤家は豊臣恩顧の大名ではあったが、それ以上に「とても重要な位置には置いておけない愚か者である」という認識のほうが強かったのではないか。

1643年(寛永20年)、明成が病のため藩主を辞したいと申し出たところ、幕府は会津藩そのものを加藤家から取り上げてしまったのである。彼の願書にあった「40万石に代えても」という言葉がこれに大きく作用したはずだ。その通りにしてやろう、ということだ。

しかし、幕府としても加藤家を潰してしまうのはためらったらしい。嘉明の徳川家への貢献もプラスに働いたのだろうか、明成の息子・明友が石見国に1万石を与えられたため、ここに吉永藩が成立した。
明友は銅山や新田の開発、飢饉の時の粥の支給など善政を施し、それが評価されて近江国水口に2万石を与えられた。この地は東海道の要所であり、そこから水口藩は将軍家と深いかかわりを持った。
その後、1度は壬生藩に転封となった加藤家だったが、再び水口藩に戻り明治維新まで藩主を務めている。

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