御城印リストにまとめているように、日本で最初に御城印を販売したのは松本城(1991年頃)ですが、たんなるお土産としてではなく御城印の持つ可能性に目をつけて本格的に活用されたのは2016年(平成28年)にはじめられた郡上八幡城じゃないかと思います。
今回リストを作成するにあたり、全国のお城に御城印の情報を問い合わせている中で、郡上八幡城では「城御朱印(来城記念証)による城郭振興の仕組み」という素晴らしい取り組みをされていることを知りました。
これは御城印を来城者と現地(お城)だけでなく、たとえば熊本城の復興支援に寄付するなど、広く城郭同士が連携していく一大構想で、郡上八幡城は自ら率先してすでに熊本城に300万円をこえる金額を寄付されています。
そこでこのお城同士が連携していく仕組みのことや、そもそも近年の御城印ブームの背景について、郡上八幡産業振興公社の小木曽さんにお話を伺いました。
(今回はメールインタビューです)
「お城の企画・話題作りに何か面白いアイデアはないですかねえ?」というような職員同士の雑談の中で、ある女性職員が「お城でも御朱印を発行してみたら?」という意見が出たことがきっかけです。
当時――今でも続いていますが――寺社仏閣のいわゆる御朱印ブームの最中で、「御朱印ガール」という言葉も生まれており、その女性職員もまさに御朱印ガールでした。
雑談の中でのアイデアだったので、御朱印に関心のない私としては「お城で御朱印は違うんじゃないか?」「そんなもの欲しい人おるんかなあ?」と話半分で聞いていましたが、ネットで「城 御朱印」と検索してみると、すでに長野の松本城さん、福島の鶴ヶ城さんが記念証を発行されていることを知り、またそのデザイン(城郭名+家紋・花押)にお城らしさを感じ、「お! これは本格的に取り組めば面白い企画になるのでは!?」と関心を持ちました。
翌日には松本城へ行き、さっそく記念証を手に入れ、郡上八幡城でも発行を始められるように企画を始めていきました。
企画するにあたり、単に真似をするだけでなく、コンセプトや内容についてもイチから組み立てました。
具体的には、
- きっかけは寺社仏閣の御朱印ブームを受けてですが、寺社仏閣の御朱印とは「別モノ」の「来城記念証」として展開すること
- 刷り込みの「書置き」を渡すにしても、県内の工芸品である「美濃和紙」を使うことで地域性を出し、お客様にも喜んでもらえるクオリティを目指す
- 単なる営利商品としてではなく「お城の整備運営の基金」とすることを目的とする
- 全国の城に広がっていくことで、城郭振興に繋がるコンテンツを目指す
そして今の時代、テレビ・新聞等のマスメディアだけでなく、各個人によるSNSでの情報発信がすぐに拡散されていく時代なので、ここ2年ほどの広がりはそのあたりの影響も大きいかと思います。
それを見て、同じ城郭としてなにか支援できないかと考えた際、社内の総意で「発行を始めたばかりの城御朱印の売り上げを全額熊本城の復興支援に充てよう」と決めました。
当時はまだ発行を始めたばかりで、年間にどれくらいの枚数が出るのかも予想もできない中でしたが、少しでも熊本城の復興に役立てればとの思いでした。
そのような中で「この城御朱印は自分のお城の振興だけでなく、お城同士の支援の輪を広げる企画になるのでは?」と考え、城御朱印のコンセプトの中にこの【城御朱印を通じた城郭振興】を取り入れました。
ありがたいことに、初年度は4615枚の発行となり1,384,500円を熊本城への寄付に充てることができました。
(※翌年からは全額ではなく一部を寄付で継続、2年目3年目は100万円の寄付となり、3年間で3,384,500円の寄付に繋がっております)
御城印は波こそあれど、この先も続いていくコンテンツとして取り扱いますので、この支援も【継続可能な支援】が期待できます。図の例の通り、1年で50万円の寄付でも、5年経てば250万円、10年継続すればひとつのお城でも500万円の寄付に繋がる可能性を秘めています!
郡上八幡城という小さなお城でもこれだけの支援ができるのですから、御城印を発行する全国各地のお城が連携できれば、すごく大きな支援の輪になるはずです。
この【継続可能&連携可能】な支援体制を築けるという部分が御城印の大きな魅力だと思っています。
まさに「お城のお城によるお城のための城郭振興・城郭支援」の取り組みです。今のところ、この取り組みの声をかけた岐阜城だけは連携をとってくれている状況です。
もしも全国のお城同士の連携が実現した場合、この取り組みは全国レベルで(世界的にも)ビジネスモデルになる企画となり、日本のお城の評価も底上げとなると思っています。
もともと「御城印」自体が全国統一の企画ではないので連携も簡単にはいきませんが、ぜひ一か所でも多くのお城が共感をしていただければ幸いです。
各お城ごとにゆかりのある家紋や花押などをデザインに反映されており、眺めるだけでも面白い御城印――ぜひお城に足を運んだ記念として各地の御城印を収集し、旅の記念として一生の宝物にしていただければ幸いです!
また、御城印はうまく活用をすれば城郭振興に繋がります。皆様のお力で支援の輪が広がっていけば嬉しく思います。
お話を伺ってみての感想
郡上八幡城での御城印は小木曽さん自身の発案ではなく、御朱印集めをされていた女性のアイデアだったんですね。
ぼくも小木曽さん同様、御城印の第一印象は「お城で御朱印もどきを売るのか(買うのか)」と懐疑的でしたが、御城印が各地でオリジナリティを発揮できるお土産でありつつ、さらに(呼び名は各地で微妙にちがっていても)「御城印」という共通点があるという意味ではじつにおもしろい存在だなと思って最近は注目しています。
昭和の観光地ではペナントや提灯などが共通のお土産物として並んでいましたが、御城印はそういった存在になれそうですよね。
同時に昔からある寺社仏閣の御朱印集めをされている方々とのトラブルを避けなければならないと思っているのですが、郡上八幡城では御朱印との混同を避けるためにあえて「城御朱印(来城記念証)」と命名されており、こうした気遣いも素晴らしいと思います。
攻城団では御城印も御朱印もどちらもお城めぐりをされる方にとって楽しめると思っているので、今後も継続的に取り上げて紹介するつもりですが、それぞれの楽しさを丁寧に伝えていければと考えています。
そして今回お話を伺いたいと思った最大の動機でもありますが、小木曽さんがすごいのは御城印を販売して稼ごうという営利100%の行動ではなく、御城印を普及させることで全国のお城が連携しあえるよう、運営サイドにも積極的に働きかけているところです。
現在は熊本城に寄付されていますが、この先どこのお城が自然災害の被害者になるかわかりません。そうした際に臨機応変に助け合える共同体として――ある意味では基金のような仕組みとして――この「城御朱印による城郭連携」構想を広めようとされていることには感動しました。
スタンプと異なり、御城印の場合は消費が伴う(=お金が動く)ので、その収益をどう活用するかまで考えられるのでいいですよね。もちろん自分たちのお城の整備に使うことを主目的にすればいいのですが、みんなが少しずつ「いま困っている」お城に支援しあえれば、いつか自分が被災した際にも助けてもらえると思うのです。
攻城団としてもご当地缶バッジは現地の収益源になればと思って積極的に呼びかけていますが、このように「現地でしか買えない」かつ「地元がちゃんと経済的に潤う」取り組みはどんどん広がっていってほしいですね。
郡上八幡城で販売されている御城印はこちらです。