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名古屋城は木造再建したほうがいいと思いますか?

アンケート結果を発表しました。10日間で52名の方に回答していただきました。

名古屋城天守は木造再建で基本合意

名古屋市の広報誌に、現在注目されている名古屋城の天守を木造復元する件についての情報が掲載されています。

広報なごや折込資料「名古屋城天守閣の整備」より

この話題は去年からずっとされていて、予算規模もさることながら整備計画そのものの是非についても意見がわかれていて、気になっている方も多いのではないでしょうか。

資料には「天守閣整備に対する課題」「民間業者からの技術提案」「天守閣木造復元にかかるお金等」とポイントが整理されているので、内容を追ってみたいと思います。
なお、名古屋城や大阪城は「天守」ではなく「天守閣」という呼称を使っていますが、攻城団では「天守」を使用します。
(たぶん名古屋城もいま建っている復元天守を指す場合のみ「天守閣」としているようですね)

そもそもなぜ天守の建て直しが必要なのか

いまある復元天守(正確には外観復元天守)は1959年(昭和34年)に建てられていますので、すでに56年以上が経過しています。現在の天守はコンクリート製ですが、コンクリートにも経年劣化があるため、耐震性に不安が出てきているそうです。
(ちなみに当時は建築基準法の関係で木造復元はそもそも不可能でした)

広報なごや折込資料「名古屋城天守閣の整備」より

そこで「ひとまず暫定的な補修をして延命する」か、あるいは「いっそのこと抜本的な建て直しを図る」かという選択が迫られています。
そして建て直す場合に、「前回同様コンクリート製で建てる」か、「木造で再建する」かという選択肢があります。
河村たかし市長は「抜本的な建て直し」を「木造」でと主張されてます。もっともコンクリートで再建するメリットはあまり考えられないので(だったら補修で十分)現実的には「再建」イコール「木造再建」でしょうね。

誤解のないように整理しておくと、そもそも天守の建て直しは必須ではなく、小田原城が今回おこなったように耐震補強だけでもいいのです。設備の老朽化もあわせて直すことは可能です。
また石垣の変形などについてはいま弘前城や唐津城がおこなっているように石垣だけを直すこともできます。

だけど、どうせ工事をするならば、より集客力がある(と思われる)木造復元を検討しませんかという話です。
市長は海外から大勢の観光客が訪日する東京オリンピック開催の2020年(平成32年)7月までに再建してオープンしたいと考えています(そりゃそうでしょうね)。

木造での天守再建は可能なのか

木造復元については、

  • 技術的に可能なのか
  • 木材などの部材が調達できるのか
  • 資料が残っているのか

といった点が課題となります。

技術的に可能なのか

技術的な話は「昔できたんだから」と楽観視するのは危険で、職人の技術の継承が困難であることは、熊本城の石垣修復の例を出すまでもなく、よくわかると思います。
姫路城も技術を継承していくために定期的に工事をしていますし、城ではありませんが伊勢神宮が20年毎におこなっている式年遷宮の目的のひとつは技術の継承のためだといわれていますね。
宮大工の技術の継承のためだけにでもやる価値があるという意見も目にしました。

木材などの部材が調達できるのか

木曾檜などの木材の調達はけっこう深刻です。おそらく暗黙の条件として、木造復元の前提に国内産の木材を使うことがあるでしょうし、海外産の輸入木材を使って復元されたと聞くとなんかもやっとしますしね。
とくに心柱といわれる天守を支える太い柱については姫路城の改修工事でも入手に苦労されていたので、そう簡単ではないと思います。
(「名古屋城天守閣フォーラム」というイベントでは檜の入手は可能だと話されていたそうです)

資料が残っているのか

資料については『金城温古録(きんじょうおんころく)』や『昭和実測図(しょうわじっそくず)』といった記録資料が多数残っていることから、戦争で焼失した当時の天守に忠実な復元は可能だといわれています。
ただし天守はそもそも観光用につくられていないことは周知のとおりで、現存している姫路城や松本城などを訪問された方はよくわかると思いますが、忠実に復元してしまうと現在のようにバリアフリーには対応できなくなりますし、高齢者が見学する際の危険度も増します。

補足ですが、現在の名古屋城天守は「外観復元天守」に分類されていますが、最上層の窓は展望窓として焼失前より大きなものとしたため、完全に忠実というわけではありません。

天守再建にいくらかかるのか

名古屋市によるコンペで採用された(優先交渉権を得た)竹中工務店の提案内容によれば、総事業費は「約474億円〜約505億円」だそうです。

  • 竣工時期は2020年(平成32年)7月
  • 木材は原則、国産材を使用(一部、海外産を使用)
  • 小型エレベーターを設置してバリアフリー化
  • 姫路城のように工事現場の見学施設を設置して復元過程を公開
広報なごや折込資料「名古屋城天守閣の整備」より

復元にかかる費用の捻出について

再オープン後は姫路城にそろえて入城料を1000円にするみたいですね(現在は500円。市民は450円のまま据え置きの予定)。
建設費については市債を発行するなどしてまかない、その返済は2020年(平成32年)〜2069年(平成81年)の50年間の入城料収入の75%をあてる(その期間中の運営費を含む)という試算が提示されています。
(まあ、2069年はさすがに「平成」ではないでしょうけどね)

広報なごや折込資料「名古屋城天守閣の整備」より

もちろんこの間にも補修などは必要になりますので、修繕費として31億円は支出予定額に計上されています。

ちなみに耐震改修工事の場合は約29億円ほどの試算ですが、この場合に延長される寿命は40年ほどとされており、その時点でさらに改修するか再建するかの判断が問われます。
(今回の小田原城の耐震補強およびリニューアル工事の総事業費は約9億7000万円でした)

工期については東京オリンピックまでにというのが条件になっているとはいえ、天守台の石垣を破壊することなく解体、再建するとなると現実的にはむずかしいのかもしれないですね。
市長は「築城時は2年くらいで建てているんだからトラックやクレーンを利用できる現代なら十分可能だ」とおっしゃってますが(じっさい名古屋城は1609年(慶長14年)着工、1612年(慶長17年)竣工なので約2年です)、なんにもないところに建てるのと、いまあるものを解体し、しかも石垣を毀損することなく建てるのでは難易度がかなりちがうような気もします。
とはいえここは竹中工務店が大丈夫だといってるんだから信じましょう。

どう判断すればいいのか

まずは「それだけの予算を投じる価値があるのか」というところが争点になると思います。
この点は入城料収入で返済するといっても50年がかりの試算ですし、まあ予測の精度もまったくあてにならないのですが、逆に予想を大きく上回るような観光効果もあるかもしれませんよね。
じっさい姫路城も予想より多かったですし、昨今の大阪城の外国人観光客の盛況ぶりを見ていると十分可能性はあると思います(まあ外国人観光客はコンクリートの大阪城に満足しているわけですから、木造にする意味は薄れますが)。

なのでこの手の推測や憶測に基づいた試算で賛成や反対をするのはあまり意味がないかなと思っています。
それよりも「こんな巨大な木造建築、見たくない?」というシンプルな興味で判断したほうがいいんじゃないかなあ。

もちろんほかにやることはあるだろうという予算使途の優先順位の問題はありますよね。
熊本市における熊本城ほど、名古屋城は市民にとって重要視されてませんし。
(これは良くも悪くも熊本にはほかにライバルがいない上に人口も少ないからで、名古屋の人が冷たいわけじゃないです)

あと天守の再建はいいんだけど、二の丸跡に体育館があるとか城域全体の整備が不十分なので観光地としての魅力を高めるためには、周辺整備も含めた計画にしたほうがいいような気がしますね。

あなたの意見はどうですか?

最後にアンケートを用意しました。
ぜひあなたのご意見をお聞かせください。


今回紹介した名古屋市の資料のPDFはこちらで入手できます。

   
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